土村芳(つちむら かほ)の主演ドラマ『ライオンのおやつ』が2021年6月27日(日)よりNHK BSプレミアムで放送中だ。
ホスピス<ライオンの家>で生命の終わりを迎える人々がリクエストするおやつから、それぞれの人生のエピソードを描いていく本作。注目の最新ドラマで土村は、若くして余命宣告される海野雫というキャラクターをどのように自身の演技に落とし込んでいったのか?
「常にいっぱいいっぱいかもしれない」という謙虚な姿勢とは裏腹に、役者としての確固たる信念が垣間見えるインタビュー第2回をお送りする。
「雫の人生に全身全霊で飛び込むような感覚」
―『僕たちは変わらない朝を迎える』(2021年)では「お芝居してたらいっぱいいっぱいになる」という寧々の台詞がありますが、そういった部分は土村さんにもありますか?
ありますね。何も聞こえなくなるときは、確かにあるんです。時間が経って終わってから、いっぱいいっぱいだったなって思う。そうなっている時って、あまり客観的になれないじゃないですか。
―それは、むしろいい意味で“ゾーン”に入っている、集中しているということなのではないでしょうか?
よく言えば集中できているのかもしれないんですが、終わってみたら全然、自分の中に余裕がなかったなって、振り返ってそう思うことはありますね。
―そういうときでも監督からOKが出ているわけですよね。
はい、そうです(笑)。
―『ライオンのおやつ』でも、そういった瞬間はありましたか?
第2話の最後、マドンナさん(鈴木京香が演じるホスピスの寮母兼院長)に対して、誰にも言ってこなかったであろう自分の死に対する「怖い」っていう気持ちを初めて言葉にするシーンですね。そう考えると毎回どんな作品に対しても、自分の役に向き合うときって意外といっぱいいっぱいなのかもしれないですけど、その度合いですよね。楽にできたことってないかもしれないです。終わったあとで常に振り返ってしまいますし、すごく反省もしてしまいますね。
―それだけ観る側も迫力を感じるというか、今回の脚本も台詞のない表情だけで演技するシーンが多くて驚きました。
それも魅力のひとつになるんじゃないかなという気はしています。その場に漂っている空気とか、雫ちゃんの気持ちの揺れ動きだったりとか、そういう微妙なラインを私も頑張って表現し続けたいなと思っています。
―役を演じるときに、ご自身と役柄とを分けて考えることはないのでしょうか?
私、役への向き合い方が本当にバラバラで、正直、自分の中でも“これ”というやり方はないんですが、例えば『本気のしるし』の浮世さんに関しては、彼女が生きている時空に寄り添っている感覚というか……。どの役に対しても、その人の一番の理解者でありたいし、味方でありたい。雫に関しては、とにかく彼女の人生に全身全霊で飛び込むような感覚というか、言葉にしようとすると上手い表現が見つからないんですが、覚悟を持っているという意味では、役柄そのものに飛び込んでいる感じです。
―特に雫の場合は死に際して、それを受け入れていく役なので、とても大変そうです。
そのぶん周りからもらうものもすごく多いキャラクターですし、もらうことで初めて自分の中で何らかの変化が起こるので、その周りの人たちから私がどれだけ吸収できるか? ということなのかなと、すごく感じています。
―そういったところで、共演の方々との印象的なエピソードがありましたら教えて下さい。
いまのところマドンナさんとのシーンが一番多いんですが、回を重ねて、どれだけマドンナさんが自分の中の大きな柱のひとつになっているのかを現場で実感しています。マドンナさんは雫のすべてを受け止めてくれる役なので。彼女の前だからこそ見せられる感情が現場で初めて沸き起こってくることも多かったですし、雫が思いもよらなかった感情と、私が現場で思いもしていなかった感情がリンクしたり、通じる部分もあるのかなと思います。
―人のために牛乳を3時間かき混ぜ続けることができる人なんですものね。
そう! 蘇(牛乳をかき混ぜ続けながら固形になるまで煮つめたもので、調理に3時間必要)を初めて食べたんですけど。
―実際に召し上がったんですか!
初めて食べる味でした! すべての乳製品の要素があるもの、っていうんですかね。チーズなのかバターなのか、ヨーグルトなのか……でも新鮮な牛乳そのものの香りは残っているし……。マドンナさんの台詞にある「最後の最後に残るもの」って、ああこういう味なんだなーっていうのを現場で感じていました(笑)。また、それをすごく素敵な、本当に素敵な笑顔で私に「ハイ」って説明してくださるマドンナさんがとっても魅力的で、 底が知れないというか、なんだかすごく大きな存在に感じられました。
「役と出会うことによって新しい感覚、感性をもらうことが多い」
―では今後、演じてみたい役柄はありますか? 舞台や小説などで気になっているものでも構いません。
本当に、なんでもやってみたい! というのが正直なところではあるんですが、いままで自分の中ですごく挑戦的な役をやらせていただけているなと、改めて思うんです。今日(取材日)、脚本監修の岡田惠和さんのラジオ番組に出演させていただいたんですが、私と実際に対面したら今までのイメージとはちょっと違ったらしくて。自分の印象について聞く機会がないので、岡田さんのその言葉がすごく印象的でしたし、そういう印象の変化が将来、新しい役につながるきっかけになるかもしれないなと感じました。
今回、雫を演じるために髪型を変えているんですが、それがきっかけでショートムービーでトランスジェンダーの方の役をやらせていただいたんです。私の中ではすごく大きなことですし、そういう不思議なご縁で作品に参加させていただいていることも多いなって。役と出会うことによって、自分の中に何か新しい感覚、感性をもらうことが多いです。そう考えると、具体的な「これやりたい」という役よりも、もっともっと自分を知っていただくための世界を広げていきたいなあっていう欲求が、すごく強いです。
―過去には三浦大輔さんの舞台(「母に欲す」)への出演もありました。稽古はハードではなかったですか?
学生時代は別として、初めてお仕事として大きな規模の舞台に立たせていただいた作品で、ご迷惑をおかけしてしまった思い出もあります。それでもやっぱり、共演の池松壮亮さんや峯田和伸さんなど、誰にも真似できない感性を持たれている皆さんと舞台をご一緒できたことは、本当に私の中ですごく貴重な経験だったなと思います。
―常に全力投球で本当にお忙しいかと思うのですが、お休みの日などの気分転換はどうしてらっしゃいますか?
気分転換、してるのかな? して……ないかもしれないです。今はどっぷりと『ライオンのおやつ』に浸かっていて、海外ドラマとかを観るのは好きなんですけど、正直あまり観られていなくて。ちょっと今は、ほかの情報は入れていない状態なんです。
―やはりそれは集中、ということなんでしょうね。
よく言えば集中ですけど、悪く言えばいっぱいいっぱいですよね。そう、私いっぱいいっぱいなの!(笑)。ああ、なんかまだまだだなあって思いますね、本当に。でも八丈島から帰ってきて少しだけ時間があったんですが、そのときドキュメンタリーを観ました。
―ドキュメンタリー映画ですか?
物語のある映画ではなくて、中国の洞窟のお話です。面白かったですよ、なんか“龍の巣”って呼ばれている洞窟で。
―ああ、NHKの!(NHKスペシャル『巨大地下空間 龍の巣に挑む』)
ご存知でしたか? それを観たんですが、本当に面白かったです。でも、今はなるべく他の情報は入れないようにしてるのかもしれないですね。(気分転換は)もしかしたら筋トレとかですかね。汗をかいて……とか。
「母がよく作ってくれた紅茶とりんごのケーキをリクエストしたい」
―では最後に、実際に『ライオンのおやつ』のようなシチュエーションに置かれたとして、食べたい“おやつ”はありますか?
機会が与えられたら私、すごくたくさん(おやつのリクエストを)入れちゃうと思うんですよ。いつ誰が当たるか分からないってなったら、多分いっぱい書いていっぱい入れちゃうと思う。売られているお菓子じゃないものだとしたら、小さいころに母がよく作ってくれたケーキですね。紅茶とりんごのケーキなんですけど、それが当時の私からすると、周りの友だちに自慢できるようなおやつだったんです。何かあったときにお母さんが作ってくれて、友だちの家に行くときにお土産として持っていったり、そういうちょっとした機会に作ってくれたそのケーキが、私の中での一番のおやつでした。
―パウンドケーキですか?
そうですね。りんごの厚みとか、火の通り加減も絶妙なんです。しっかり焼いているんですけど、りんごはシャキッとしたままだったり、どう作っていたのか分からないんですけど……りんごのお菓子って、火を通すと結構くたっとしてしまうじゃないですか。でも瑞々しさが残ったまま焼けていて。大人になると改めて、あれはどうやってたんだろう? って思います。あのケーキは必ずリクエストに入れますね。
取材・文:遠藤京子
撮影:川野結李歌
衣装協力:タンクトップ、ジャケット、パンツ ROSE BUD/シューズ mamian/ブレスレット、リング JUPITER (共にDearium 渋谷スクランブルスクエア)
『ライオンのおやつ』はNHK BSプレミアムで2021年6月27日(日)よる10時より放送中